Matrix Restart Written by TOMO Based on "Matrix" trilogy
「違う!トリニティ、そうじゃない!」
ネオはそう叫んで飛び起きた。まだ真夜中を過ぎたばかり、寝入ってからも大して経っていない。ネオは暗闇のなかで再び横になり、心臓の動悸が収まるのを待つ。しかし、かれの神経は昂ったまま、たったいま忍び込んできた疑念を反芻していた。
「…そんなつもりじゃなかった。だけど…。おお、トリニティ…。」
「そうなの、オラクル。元気もないし、食欲も落ち気味。このところは夜更かしも増えて、あまり眠ろうともしないの。それでいて、なにをしている、ということでもないみたい。」
一瞬あたりの様子を伺ったサティは、電話口で声をひそめた。
「また眠れないのかと思って、それとなく聞いてみたのよ。そしたら、眠れない訳じゃないらしいのね。ただ…。」
「ただ、なんだね?」
「夢見がよくないとか、そんなことをこぼしていたわ。」
「夢見が?」
電話の向こうの声が鋭くなる。
「ええ。なにか嫌な夢をみるとか。そうもそれが、このところ続いていたらしいのよ。」
「悪夢が続くんだって?それは同じ夢なのかい?」
「それはわからないわ。でも、なにかトリニティに関係するもののようなの。…恋人のことが忘れられないのね、彼。寂しいのかしら。」
そう言っているサティのほうがよっぽど寂しそうだ。
「そりゃあ、忘れることはできまいよ。でもねぇ、…嫌な夢だって?トリニティの?しかもそれが続いている?」
「あんな死に別れをしたんだもん、思い出すにはつらいわよね。それに、気になり出したらとことん気にする人だし、ネオは。」
「まあね…。しかし、いい思い出だってあるはずなんだ。嫌な夢ばかりというのはちょっと変だね。」
「やっぱり。私もそう思ったのよ。でも、人の夢をみるわけにはいかないし…。」
「そうとはかぎらないよ。」
「え?」
「あたしは夢とか幻影とかデジャブとか、そういったことにはちょっとうるさいんでね。」
そういったオラクルの声は、ちょっと笑っているようでもあった。
「…ネオ、ネオ…。…どこなの、ネオ。」
暗闇の向こうから響くかすかな声。
「トリニティ!僕はここだ!トリニティ!」
ネオは必死で声のする方向へ走った。しかし、走っても走っても声は遠ざかり、気が付くと呼び声は後ろから聞こえている。ネオは立ち止まり、また走り出した。なんども、なんども。果てしなく。
そしてついに力尽き、動けなくなったネオはしかし、なおも呼び続けた。 「…おお、トリニティ…。君が見えない。どこにいるんだい、トリニティ?」
「…ネオ。」
暗闇の中にかすかに浮かび上がる青白い影。それは近寄ってくるわけではなく、しかし次第にはっきりとした人の形になっていった。
「トリニティ!」
「…ネオ…。わたしを助けてくれないの?」
ネオは再び駆け寄ろうとしたが、体がまったく動かない。手を差し伸べることさえできず、ただ見つめるだけだ。
「動けないんだ、トリニティ!こっちへ来ておくれ!」
「ネオ。あなたはいつもそうね。自分のことしか考えていない。」
いまや確かにトリニティの姿になったにもかかわらず、いまだ人とは思えないような表情をうかべた影が言った。
「いつでも自分は助けてもらえるくせに、自分ではだれも助けようとはしないのね。」
「そんなことはない!僕は君を助けたいんだ!」
「なら、そうすればいいでしょう!でも、あなたはそうはしなかった。私を利用するだけ利用して、最後は自分の目的を果たしただけ。自分の目的のためには平気で見殺しにした。」
「違う!僕はいつだって君を助けようとしたんだ!ビルから落ちた君を受け止め、弾丸を抜いたのは僕だ。僕は世界よりも君を選んだんだ。そうだろう?」
「そうかしら?」トリニティは冷ややかに言った。
「あのときあなたは私の命を救った。でも、世界より私を選んだのかしら?結果的には、その後の私の力を利用して世界を救ったのではないかしら?私に利用価値があるうちは大事にしただけ。本当に私を大事にしていたのなら、私をマシンシティへ連れていったかしら?」
「君が付いてくると言ったんだ!」
「そうね、そしてあなたはそれをあっさり受け入れた。自分に都合の良い場合には反対しない。あなたは自分勝手に好きなことをするだけ。尽くしてくれるものは何でも歓迎、でも自分の目的が最優先。」
「そんなことはない!僕はいつだって君のことを忘れてなんかいなかったよ!」
「そうね、あなたにとって価値ある場合は。あなたは私の手助けを受け、私の体を貪り、私の愛を利用した。私が傷ついて苦しんでいる時、あなたは回りの景色に見とれていたわね。いつだって私は二の次、まずはあなた自身があるのよ。あなたは自分が世界の中心、この世の救世主、The Oneであることをやめられない、いいえ、やめたくないのよ!あなたが愛したのは世界を救う英雄きどりの自己満足だけなのよ!」
「僕は救世主になんかなりたくなかった。」
「そして、自分のなりたいものになったのね、そうでしょうとも。そこにはあなたしかいない、ほかはすべてあなたに貢ぐべき奴隷でしかないわ。」
「そんな…。僕のほうこそ、自分を犠牲にしてみんなのために努力したんだ!」
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